2013年4月22日月曜日

「標準治療」とは4:全身療法について

乳がんの標準治療では、以下の3つがセットになることが多い。

・外科手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
��上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の発現や、がんの種類によって変わる)


今回からは現在の乳がん治療において、主軸になりつつある、全身療法に関してまとめてみる。

・乳がんのサブタイプが決まる要因
ひと口に乳がんといっても、タイプは1つではない。次の分類やグレードなどを使って、そのがんの人となり的なものをさらに細かくサブタイプ化し、そのサブタイプに合わせた治療がおこなわれる。

・組織型による分類
・免疫染色による分類
・組織学的異型度によるグレード
・その他の予後解析法
なお、上記以外にも、リンパ節への転移や腫瘍径など、手術時に摘出した腫瘍の病理診断も加味される。

・組織型による分類
組織型による分類とは、いわゆる乳がんの組織構造とがん細胞の特徴によって分類したもの。いわゆる、非浸潤、浸潤、といったところから、乳管癌、小葉癌などがあり、これは日本乳癌学会の取り扱い規約にて、以下の内容がまとめられている。なんか頑張って表を作ってみたけど、あまり最近はこの分類には意味がないかも。最初のフィルターの役割って感じで(笑)。

以下は乳がんの組織学的分類(日本乳癌学会)より


・免疫染色による分類
免疫染色による分類とは、病理組織の標本を染め分けることで可視化される、がん細胞に存在する特殊な受容体(レセプター)を発見し、その発現度合により、タイプを振り分けることである。各レセプターは外部から何かしらの刺激を得ることによってがん細胞が活性化するため、これら受容体の存在を調べることで、がん細胞がどんな「餌」によって、増殖しているのかがわかる。

特殊型乳がんの一部には適用されないが、通常の乳がんの場合は以下の2つのレセプターの発現を評価し、その発現度がサブタイプ分類に使われる。発現していれば陽性、発現していなければ陰性であり、基本的に陽性=そのレセプターに対する治療が効きやすいと思っていただきたい。
・ホルモン受容体
・HER2タンパク

ホルモン受容体(レセプター)には、女性ホルモンである”エストロゲン”もしくは”プロゲステロン”の2つがあり、この受容体があるがん細胞は、上記のホルモンの刺激によって増殖する。何度か病理診断などに関して略称で書いてきたが、「ER」=エストロゲンレセプター、「PgR」=プロゲステロンレセプターのことだ。これらががん細胞の核に存在しているのならば、そのレセプターに対して女性ホルモンという「餌を絶つ」、いわゆる兵糧攻めを行うのが「ホルモン療法」である。ちなみに、ホルモンレセプター陽性乳がんは、乳がんの中でもっとも多く約70%を占め、ホルモン療法自体は、乳がんの全身療法として古くから存在する治療法である。

HER2(human EGFR-related 2/neu)タンパクは、がん細胞の膜(細胞表面に存在する糖タンパク)に存在する受容体型キナーゼである。このHER2を過剰発現する乳がん(HER2陽性乳がん)に対しては、HER2を標的にした分子標的治療薬を用いた分子標的療法が行われる。乳がん全体の約25%を占めるといわれるHER2陽性乳がんは、がん細胞の増殖速度が非常に早く、数年前までは、もっとも予後が悪いものとされてきた。しかし、このHER2タンパクのみを狙い撃つための分子標的治療薬(トラスツズマブ、商品名:ハーセプチン)が登場したことにより、予後が大きく改善された。

トラスツズマブは日本において、2001年に転移進行性乳がん(いわゆる再発や遠隔転移)に対しての治療薬として承認されたのち、2008年にHER2過剰発現乳がんの全身療法への追加適用が承認されている。また、現在、HER2陽性乳がんに対する分子標的治療薬には、トラスツズマブ以外にもいくつか存在している。個人的に思うに、ここ数年でもっとも生存率が上がったサブタイプじゃないかと。

・組織学的異型度によるグレード
乳がんの細胞・組織学的な特徴のことを悪性度(グレード)と呼び、この数字はがんの顔つきとされている。グレードは組織学的異型度ともいわれ、乳がんの予後を推測するためのものである。評価には腺管形成の程度、核の多形性、核分裂数の3つの因子を3段階にスコア化し、次にこれらの数値を合計して、3、4、5点=グレード1となり、6、7点=グレード2となり、8、9点=グレード3と判定しているようだ。生存率はグレード3、2、1の順に不良であることが明らかとされれいる。

・その他の予後解析法
先にも書いたとおり、ホルモンレセプター陽性乳がんは、全体の70%程度を占めることから、さらなるサブタイプ分類が必要になっている。たとえば、ホルモンレセプター陽性乳がんの中にも、抗がん剤を上乗せした方が生存率の改善が改善されるサブタイプがあるとされており、そのサブタイプを見極めるために、上記以外の予後解析法が使われるようになっている。

Ki-67(the Ki-67 labeling index)
細胞の核に局在する、がん細胞が分裂しようとしている時に出てくるタンパク質のこと。このタンパク質は細胞の増殖の能力を示す物質と考えられており、悪性度の判定に用いられている。Ki-67の抗体で免疫染色を行うとがん細胞の核が染色され、その500個~1000個のがん細胞における、Ki-67抗体の標識率(陽性率)を表す(ちなみに、このカウント方法が色々あるようで、実はこのki-67は信憑性がどこまであるのかが謎)。ホルモンレセプター陽性の乳がんのみの治療指針とされているもので(なぜなら、予後はホルモンレセプター陽性の方がホルモンレセプター陰性よりも良いので、この数値自体がホルモンレセプター陰性乳がんには関係なくなる)、標識率が14%以上であると、予後が不良であることが報告されている。

多重遺伝子診断
これは最近使われるようになったものなので、詳しくは後日説明するが、予後解析法の1つとして取り入れられるようになったのが、予後予測因子を使った多重遺伝子診断だ。その方法は大きくRT-PCR法とDNAマイクロアレイ法の2つがあり、前者の代表的なものがOncotype DX、後者の代表的なものがMammaPrintである。

というわけで、全身療法は上記のさまざまな分類を用いて、治療方針を決めるようになっている。基本的には
・ホルモン療法(抗エストロゲン剤など)
・化学療法(いわゆる抗がん剤など)
・分子標的療法(ハーセプチンなど)
の単独または組み合わせになるが、どのように組み合わせるかは次回に書いてみたい。

そして、こんなニュースを読んでげっそり……。というか、最近の乳がんは、初期治療で抗がん剤を使う症例が減ってきてるように感じるので、必ずしも抗がん剤を治療費に上乗せしないでもいいと思うんだが、やっぱりフルコースでのトータルがわかりやすいか。特に、抗がん剤に感受性が低いとされるサブタイプには、基本的に抗がん剤は用いないというのが、最近の風潮っぽい。その反面、どうして日本は乳がんによる死亡がこんなに高いんだろう?というのは、不思議でもあるんだけど。まあ、現状の生存率は、10年であれば、2000年頭であり、その頃はまだハーセプチンも使われてなかったわけだから、10年後には、また違った数字になっているんだろうし、大きく改善されるといいなと思っている。
日本においては、手術の断端陽性の基準も、欧米に比べると厳格だから、局所コントロールは厳しくできてるだろうし、全身療法もかなりガイドラインに則ってるって感じがするし。なのに、生存率が改善してないのはなぜなんだろう。そのあたりは、もう少し調べていきたい。あと、ザンクトガレン2013の報告をちらっと見かけたが、2011年とあまり変わってない感じがした。サブタイプ分類の呼び名がよりわかりやすくなり、より遺伝子発現解析の結果を反映しているような感じになったのだろうか。
しかし、Oncotype DXは高いです。MammaPrintもですけど。早く保険収載されるようになればいいのに……と思います。

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