2013年3月31日日曜日

入院と手術1

入院の前日。実はその日まで台湾に行っていた(え〜!!)。
本当は温泉に行こうと家を出たのだが、なんとなく、そのまま台湾へ。
なんでそんなことをしたのか、ここでは説明する気はないが、まあ、私はそれぐらい台湾が好きなんで、それはそれでいいとして。

結局入院する部屋は、希望していた差額ベッド(特別療養環境室)代がかからない大部屋は空いておらず、2人部屋になった。この話は、入院前の診察の際に決まっていたことなんだけど、そこでボンボンの発言があまりにも失礼すぎて笑ってしまった。

私「はぁ、2人部屋ですか。同室の方とは上手くやっていけるでしょうか?」(←こんなことを聞く私がそもそも間違っていると、今更気がついた)
先生「大丈夫ですよ。気性の荒い方なんていませんから」(←気性が荒いって、その単語はいったいどこから来た。私の気性が荒いということを言いたいのか?)
私「(無視)同室の方は、同じ病気ですか?」
先生「そうですよ。乳がん部屋ですから。あ、同室の方はもちろん女性です」
��「乳がん部屋」ってなんだそれは……。同室が男性なわけないだろうが)
私「はぁ、乳がん部屋ですか。ところで、男性も乳がんになるんですよねぇ?」(←もうどうでもよくなった)
先生「そうそう、たまーになりますよ」(←おまえがなってしまえ!)

というわけで、私は気性が荒くない女性が同室の、乳がん部屋に入院することになったのです。

こんな失礼な発言ばかりしてたら、他の私よりもお年の患者は卒倒しちゃうんじゃないかしら、という話を知人にしたところ、年齢が上がってくると、女性というのは年下の男の言うことなんて、いちいち気にしないんじゃないの、大体男性なんて失礼なことをよく言うものだという回答をもらって、なるほどと思ったのでした。

私はたぶん、ボンボンが受け持っている患者の中では比較的若い方なんじゃないか(日本での乳がん患者は、30代まではかなり少なく、40代から爆発的に増えます。35歳以下での発病は若年性乳がんと呼ばれ、再発リスクの1つにもなるのですが、私の場合、一応そこはクリアしてる感じですw)、まだ悟りきれてないからいちいちカリカリしちゃうんだろうなぁと、もっと大らかな心を持って接していかないと、自分の神経も疲れちゃうなーと思ったのでした。いや、本当にボンボンは常にオドオドしているかつ、うっかり発言が多すぎるんですよ。診療自体に何か悪いところがあるとは思わないんですけどね。まあ、そのギャップが面白いというのもありますけど。

しかし、このボンボンは本当に腕利きなのかなーというのは、常に思ってることでもあります。ただ、個人的な見解として、この先生と共に治療を進めていきたいと思ったことがあった、というのも事実です。そのあたりは次回にでも。

ちなみに、後日談ですが、同室の方(恐らく、娘さんが20代後半なので、50代ぐらい。乳がんですが、気性は全然荒くなかったですw)と退院のときにちょっと話したところ、主治医の先生の話になりました。基本的に私が診療を受けている大学病院の乳腺外科は入院中は乳腺外科医の先生全員が1つのチームとなって患者を見るので、どの先生とも面識ができますし、症例自体も共有されています。で、ボンボンの話をしたら「●●先生って、あの坊ちゃんね♪」と、年上の貫禄を感じました。私もこうならねば……。

2013年3月26日火曜日

愚痴とかなんとか3:不安の理由

来週に手術を控え、色々とやることがあったり、なかったり。

仕事はやる気が起きず、実はこの1ヶ月ほどは、ほぼ何もやってないんですが。ただ、解雇されると治療費が払えなくなるので、復帰したらやる気だす……つもり。しかし、がんというのは、調べれば調べるほど、この先、どれだけ治療費がかかるのかがよくわからない。

標準治療ならまだしも、それが効かなくなって、保健でカバーできない領域に突入したら、いったいどうなるのか、本当にわからない。先がよくわからないことについて、お金をつぎ込ませるとは、なんと罪作りな病気のことよ。さらに、その先にあるのがほぼ死っていうのも、お金をつぎ込む意味がないしなぁ。なので、とりあえず、再発してもしなくても、すでに同じフィールドには飛び込んでしまっているわけなので、なんとか人並みな治療費を支払えるぐらいには仕事をさせてもらえると嬉しいな、と勝手な希望。

先週末は、突然、遠くに離れて住んでいる大学時代の友人のもとに行ってみた。その前日にも、少し遠い場所に会いたい人がいたので、その帰りに寄ってみたのだ。今回、どうしてもちょっとだけ頼りたいことがあったからなんだけど、旧交を温めるというよりも、結局私の暗い話が一方通行になってしまったようで、申し訳なかった。でも行ってよかったと思ってるけど。

いったい、あなたがどうしてこの不安に対する説明をするのだろうか?
その理由が、私にはわからないから不安なんだよ!


ここ数日は、来週の手術に関する術式の検討を、頭の中でしていた。どちらを選ぶべきか、ということで悩んでいたわけなんだけど、知人に相談などをしているうちに、私がなぜそれほど術式に悩むのか、その理由がやっとわかったような気がしている。

たぶん、乳がんになった人は、同じような悩みや不安を持ち、結局解消されないまま手術に臨んで、「あちゃー!」と思うか、「ま、こんなもんでしょ」や「あら、思ったより大したことなかったわネ」と思ってるんだろうけど。私はどれになるのかがわからないけど、とりあえず、日本の医療制度の問題じゃないかと思ってるんですが、それは、あのボンボン(あ、主治医のことです。もう面倒なので、ボンボン呼ばわり。そのうちたぶん、ボンとか言い出しそうだけど)がする、私の不安に対する説明の内容が不安にさせているということではなくて、ボンボンが説明をしているというその行為自体が私の不安を煽っているんだ、ということがわかって、なんとなくホッとしたという感じです(が、まったく自分の不安の解消にはならなかったんだけど)。

とはいえ、ボンボンが悪いわけじゃないので、どうしようもないんですが。簡単に言えば、ボンボンは外科医なんです。いくら乳腺外科医とはいえ、審美的な話をまともにできると思うこと自体が間違ってるんですよ。どこを、どう切って、どう腫瘍を取り出して、どう閉じる、という話や、取りこぼしがなく、切断端も陰性です、って話は彼の範疇だと思うのですが、温存術後の乳房が妥当な形で残るかどうかを見極めるのは本来、ボンボンの範疇ではないと思うし、そこに安易に手を出してほしくない。それなのに、「どう変形するのか」だなんて、聞く私もどうかと思ってるし、答えるボンボンもどうかと思うんだよね。それこそ、形成外科医のカウンセリングにするとか、もうちょっと不安を解消する方法って本当はあるんじゃないかと。そういうことをすると、医療費が上がるとか、いろいろ問題はあうんでしょうが、もっと専門医の領域を確立させてほしい、専門医だからこそ、その領域を極めてほしい、ということを切に思ったのです。

なんの話をしてるんだかわからん、という感じだと思いますが、自分の手術結果(病理診断結果の方じゃないくて、乳の残り具合)を見てから、またゆっくりこの件については書こうと思ってます。

で、術式は乳房温存術に決めた!再手術になったら、乳房切除→再建で!

2013年3月22日金曜日

診察と検査3

気がつけば、告知から1ヶ月経った。私の乳がん人生も歴史ができてきたなぁと思いつつ。

今日はこれまでの一連の検査結果を聞くのと、今後の治療方針の相談に。
これまで、ずっと私ひとりで告知も診察も受けて来たんだけど、毎度診察のたびに「おひとりですか?」と聞かれるので、今日はなんとなく暇そうだった父を連れて行ってみた(笑)。治療に関しては、この1ヶ月、情報を調べまくったおかげで標準治療に関しては大体の方向性が分かっているのと、とりあえず手術を受けて、術後の病理診断が出ないとこの先の治療方針は立てられないので、父が来たところで特に役には立たないのだが、やっぱり家族には聞いてもらっておいた方がいいかなという思惑もある。

主な話としては、PET/CTとMRIの検査結果は、どちらも1cm弱の腫瘍以外に所見は見当たらない(遠隔転移なし、腫瘍の広がりなし、リンパ節への転移なし)ということで、T1N0M0=ステージ1という当初の予定どおり、手術の術式は乳房温存で行けそうということになった。ただし、やはり小葉癌の場合の広がりは切除してみないとわからないと言われる。もしも温存した場合、術後の病理診断で切除範囲よりもがんが広がっている場合は、再手術になるとのことだが、どのくらいの割合でそうなるのかが気になると口を挟んだところ「10人に2人ぐらいかな」とのこと。「えー!思ったよりも多いですね」「いや、いや、少ないですよ」とさらりと主治医は言うが、10人に2人って、5人に1人ってことだから(なぜ、こちらを言わない!)、20%ですよ!多いでしょう?それ……。ちょっと、ちょっと、それは患者に対しての配慮が足りないですよー、もうちょっと言い方考えた方がいいですよーと思ったが、それを遮るように「こうやって画像診断して切除範囲を絞り込まなかったら、10人に4人が再手術なんですよ」と、それと比較してもしょうがないだろう?ということをしゃあしゃあと言いやがって、と思ったが、まあ、10人に4人の時代に比べれば、先生的には少ないんだろうから、まあいいや。あとで父と「どう考えても、5人に1人が再手術って多いよね」と愚痴り合ってしまったが(笑)。

そして、切除範囲は最大5cm程度(1cmの腫瘍回りにマージンを最大+2cm程度)となりそうで、どうしても温存した場合は、乳房の変形は免れない。どれぐらい変形するかはわからないそうだが(そりゃそうだが、思わず私と同じような位置で、同じぐらい切除した人の写真とかないんですかーと聞いてしまった←あったとしても患者さんの写真は勝手に見せられないし、そもそもそんなものもないと言われたんですが、いや、たぶん、探せばどっかにあると思うんですけど……)、そこでちょっと悩んでしまった。先生的には、全摘でもかまないが、それはそれで再建も大変ですよーと。そうなんだよね……。

確かに、再建は大変。でも、乳房の変形もやだし、そのうえ再手術になるのも辛いしと、とりあえず術式に関しては、手術の前日まで悩ませてもらうことになった。「それが今一番大変な悩みだと思うのですが、乳がんの場合は、手術は通過ポイントに過ぎないんです。その後の方が大切だし、長いんですよ」と、確かにそれはわかるんだけど、ね。前にも書いているとおり、乳房にそれほど執着はないんですが、私も女性なので、「あちゃー!やめとけばよかった!」ってなるのはイヤだなーと思うんですよ。取ったものは戻せないから。

その後、手術の日と入院の日を決めて、入院した日の夕方にもう一度、手術の術式に関して相談することにして今日は終わり。いよいよだな、という感じになってきた。

ちなみに、主治医に会った父は特に質問もしなかったが、診察室を出て一言。
「いいとこのボンボンって感じだなー。なんで乳腺外科なんて選んだんだろう……」
ナイス感想!ほんとうだわー!私も知りたいわー!
今度聞いてみよう(笑)。

2013年3月19日火曜日

愚痴とかなんとか2:情報はどこから?

全然、愚痴じゃないんですけど、自分がせっかく乳がんになったんだし……と思って、この先も同じ仕事を続けていけるのであれば(これが一番わからないんですけどね)、「そうだ、乳がんの本でも作ろう!」と思ったんですよ。タダでは起きないというのは、こういうことを言うんでしょうねぇ。

で、これまでにさまざまな出版社から出ている、乳がん本の売上データをざざっと見て推測するに……(職業柄見られるので)
えええっ!思った以上に、売れてない……。

現在、日本では年間5~6万人が乳がんと診断されているわけです。今後も増え続けるのであれば、実際のところ、パイが増えるマーケットじゃないですか。しかも、検診を受けた中から、実際に乳がんと診断されるのは、1%以下なんですよ。だったら、検診層~精密検査層までを取り込むようなものじゃないとダメなんでしょうね。患者の1%が購入してくださっても、わずか500部にしかならないので、それでは、設計が成り立たない……。まぁ、これこそ電子書籍!っていう考え方もできたりと、段々話がずれるので、本筋へ一度戻すとしましてね。

いわゆるネット上のQAサイトを見たって、かなりの人が「乳がん」への恐怖を感じているというのも、手に取るようにわかります。これだけ予備軍がいるのに、なんで「乳がん」の本って売れてないわけ……という私も、実は本を1冊も買ってません。買おうと思って本屋さんとかで立ち読みしたんですけど、別に手元においておきたいって思った本は1冊もありませんでした(私の職業柄、1冊ぐらい買いそうなものですがw)。結局のところ、インターネットにある情報で、標準治療の大体ってわかるものなんですよ。


実際に参照されている情報は?

日本の乳腺外科医や腫瘍内科医など、乳がんに関わる医師が参照している情報というのは、以下の3つが多いらしいのですが(そして、恐らくはそうです。必ず出てきますので)、これらは大体インターネット上で情報が得られるものでもあるのです。

・日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」
・NCCN(National Comprehensive Cancer Network)の「乳がんガイドライン」
・St. Gallen International Conference on Primary Therapy of Early Breast Cancerの「コンセンサス」


最後のものだけちょっと補足。2年に1回、スイスのSt. Gallen(ザンクトガレン)で乳がん初期の治療に関する国際的な会議が行われているのですが、これは世界中で注目されている乳がんに関する会議です。最終日に世界各国から集まった乳癌治療エキスパートによる「コンセンサス会議」で、新たな治療指針が示されます。これが「ザンクトガレン コンセンサス」として、乳がん初期の治療指針の最新情報となり、参照されることが多いのです。ちなみに、2013年度の第13回のカンファレンスはつい先日終わり、今後2013年度のザンクトガレン コンセンサスも見かけるようになることでしょう。

これ以外にも、ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)やサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)などの情報もよく参照されていますが、大抵は上記3つを元にしていることが多いようです。

上記の各ガイドラインを見ると、乳がんの診断がされており、病理的な診断まで含めてわかっていらっしゃる方は、自分が選ぶべき標準治療を組み立てられると思います。ただし、標準治療上で選択肢がいくつかある場合や、そもそも標準治療ではない治療法を選ぶ場合は、主治医との相談が必要になるとは思うのですが、通常の標準治療を選ぶのではれば、実際のところ「本」を買う必要がないというのも事実です。

特に、NCCNのガイドラインには日本語化されたものもあり、それを見ることで、今後どのような診断があれば、どのような治療が行われるかというのは、ほぼわかります。逆に日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」は、学会員でないと、詳細が見られないため、わからない部分もあるのが残念なのですが、これこそ書籍を買えば恐らくわかることなんではないかと。

というわけで、唯一読んでみたいのは日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」。これは、きっとよい選択肢な気がします(笑)。

あと、あまり情報がないところで、今後絶対的に必要になるのは、再発・転移に関してですね。基本的に乳がんが再発した場合、その先に治癒はありません。QOLを維持しながら、できるだけ長くがんと共存していくしかないのです。共存ができなくなった場合は、死です。ただ、乳がんの再発・転移に関しては、かなりのケースでコントロールが効くことが多く、年単位での生存期間が望めます。患者によっては、十年単位の方もいらっしゃるわけで、初期治療に関して、現状これだけ標準治療が確立した現在は、その先の再発・転移へのケアが求められているんじゃないかと思っています。

そろそろ私も最終的な治療方針が出るので、どうなることやら。えーっとですね、もし手術ができないと私が言っている場合は、いわゆる末期なんですよね。はああ……気が重い。

あ、たぶん、乳がん関連で唯一これは売れてると思うんですが、乳がん検診に対しての啓蒙にはなったかもしれないけど、知識としてはいらない本なので。えへへ。

2013年3月12日火曜日

「標準治療」とは2:外科手術と病期(ステージ)

前回はがんに対する「標準治療」とはなにか、という話をした。
繰り返しになるが、乳がんでは、次の3つがセットになることが多い。

・外科手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
��上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の出現や、がんの種類によって変わる)


これらの治療は、病期の確定後に進められることになり、その病期(ステージ)を確定するために、TNM分類が使われるという話をした。何度か同じことを書いているが、がんというのは、細胞の異変によって引き起こされる病気なので、いわゆる臨床診断(診察や画像による診断)だけでなく、病理診断(組織による診断)の2つの診断が合致することで、確定診断となる。病期(ステージ)の決定も例にもれず、ガンの確定診断が出たあとであっても、臨床診断だけで病期(ステージ)を確定することが難しい。

特に私の小葉癌の場合、これも何度も書いているが、術前に行われる一連の検査にて、がんの広がりが大半を占める乳菅癌よりも確定しにくいというのもあり、臨床診断によって、現在医師がカルテに記入した病期(ステージ)は、単に推定しているものと言ってもよいのだろう。とは言え、医師としても適当に治療を進めるわけではなく(当たり前ですが)、基本的に現状わかっていることをベースに治療を進めていくことになる。

・外科手術が適用になるのは
手術というと、その術式について話されることが多いが、まずは、乳がんの場合に外科的手術が適用になる病期(ステージ)があるということを知っておきたい。乳がんにおける外科手術は、乳房やリンパ節など、局所に現在見えているがんを取り除けるという判断ができるのであれば、手術が適用になることが多い。

ただし、遠隔転移がある場合は、すでに全身にがんが広がっているということになるので、手術の適用にはならない。また、遠隔転移がなくても、鎖骨の上下や胸の内側のリンパ節にがんが転移している場合も、ほぼ全身に転移が始まっているとなるため、手術の前に全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的療法)を行い、その結果改善が見られた場合のみ、手術もしくは放射線治療などが行われることになる。

前回のTNM分類によれば、手術が適用となるのは、病期(ステージ)0~3Aまでだ。以前上げたTNM分類の表は、病期(ステージ)3が3Aと3Bしかなく古いものだが、現在は3Aに加え、3Bと3Cに分けられ3つになった。こちらの表にある3Bのうち、T4+N0、N1、N2+M0が病期(ステージ)3Bになり、それ以外が病期(ステージ)3Cとなる。

・外科的手術の術式
現在、乳がんで行われる外科手術は以下の2つから選択されることが多い。

乳房温存術
がんを含めて乳房を部分的に切除し、乳房を残す方法。円状に切除する場合と扇状に切除する方法がある。現在は、乳がん手術の約半数で乳房温存手術が行われるようになった。

ただし、この乳房温存術を取るには、腫瘍の大きさ(通常は3cm以下)や、患者の乳房の大きさに対する腫瘍がどれぐらいの範囲を占めるのかが加味されて適用されることが多い。現状では適用にならなくても患者が希望する場合は、術前に全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的療法)を行い、腫瘍が確実に小さくなった場合に適用するというケースもある。

なお、乳房温存術の先進国(欧米)では、温存乳房内での再発が増えたとの報告もあり、以下で解説する乳房切除術が段々また増えているそうだ。この術式の普及が10年遅れたと言われる日本では、今後どうなるのか注目されている。

また、無理な乳房温存術は、結果として崩れた乳房になり、患者のQOL(quality of life)が著しく低下するといった報告もされており、外科医にも審美的な観点から削除範囲を決められる手腕が必要になる。

乳房切除術
がんを含めて乳房全体を切除する方法。通常、胸筋(胸の筋肉)を残す手術が行われるが、がんが胸筋に入っている場合は胸筋も一緒に切除する。最近は全摘というと、この乳房切除術を指すことが多い。

乳房切除術では、すべての乳腺組織と脂肪組織、乳頭を切除して、残った皮膚を繋ぎ合わせる。つまり、術後は平たい胸になる。しかし、形成外科医により、失った乳房を作り直す「再建」を選ぶことができる。再建方法には、一期再建(乳がんの手術とともに再建を行う)、二期再建(乳がんの手術後に、改めて再建を行う)があり、術式にはおなかの組織や背中の組織といった自家組織を使う場合とシリコンなどの人工組織を使う方法の2種類がある。

なお、これまでシリコンなどの人工組織には、健保が適応にならなかったのだが、これが4月~5月ぐらいから適用されるとのこと(ちょっとどうなるかよくわからないので、次回主治医に聞く予定)。


リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検

センチネル(sentinel:英語で「見張り」という意味)リンパ節とはわきの下のリンパ節のうち、最初にがん細胞がたどりつくリンパ節で、乳がんでは、あきらかにリンパ節への転移がない場合でも、手術前もしくは手術中にセンチネルリンパ節を切除して、がん細胞の有無を調べる検査(センチネルリンパ節生検)を行うことが多い。

その理由は、センチネルリンパ節にがん細胞がなければ、その先のリンパ節にも転移はないと判断でき、わきの下のリンパ節はそのまま残すことができるからだ。センチネルリンパ節にがん細胞が発見された場合は、リンパ節をすべて取る(これを「リンパ節郭清」と呼ぶ)方法を選ぶことになることが多い。

センチネルリンパ節生検を行うことで不要なリンパ節郭清を回避でき、リンパ節郭清を行った場合にその30%に起こるとされている浮腫や運動障害などから逃れることができるとされている。ただし、問題はそのセンチネルリンパ節を同定(確定)できるのが95%ほど。さらに同定できた場合でも生検によって陰性(転移なし)とされた症例のうち、数%は偽陰性であり、術後の病理的組織診断によって転移がわかるケースもある。

このセンチネルリンパ節生検は、2010年より健保適応となったため、一般的な乳がんの手術で適用されることが増えている。

次回は、放射線治療とホルモン療法、化学療法、分子標的療法について、また紐解いていきたい。乳がんの場合は、術後の全身療法に選択肢があり、適切な選択肢を選ぶことで、生存率の改善が望める。自分のがん細胞の増殖などに関連する因子により、治療方法をオーダーメイドできるのだ。しかし、複数の治療方法があるからこそ、患者は自分の状態を見極めたうえで治療方針を決定し、治療方法を選んでいく必要があることも事実である。

ちょっと話がずれるが、私の母は私の乳房がなくなる(というか手術する)ことに対してひどく動揺しているようで、知人などから仕入れた情報をたまに知らせてくれる。「○○さんの奥さん、乳がんだったらしいんだけど、手術せずに抗がん剤やったら、がんがなくなったんだって!手術もしてないみたいよ!」
母にとって、これは娘に対する朗報だと知らせてくれたんだと思うけど、もし、その奥さんが標準治療を選択して、現在に至っているのであれば、恐らく、転移があって手術が適用にならず、抗がん剤を行ってみたところその効果があって、がん自体が見えなくなったということだと思う。残念ながらがんそのものは、抗がん剤で治ることは非常に少なく、現在なくなったとしても、そのうち再発してもおかしくないし、再発しないかもしれないし、といったところだろう。母はこの治療方法を娘にも適用したいと思ったのだろうが、私が同じ治療方法になる場合は、手術ができないほど広がっているからっていう可能性の方が大きいんだよということを説明せずにはいられなかった。
以前、自分のこれまでのがんに対する知識に関して「徹底的に違っていた」というのはこのことだ。もしかしたら、薬だけで治るのかも、手術しなくてもいいのかも、というのは、標準治療を選ぶのなら、早期であれば手術なしでは治療とはならないため、通常は存在しない選択肢になる。もちろん、標準治療を選ばないという選択肢もあり、それを実践している方も多くいるのだが、私には、選ばない理由が今のところ見つけられないというのが本心だ。まずは、「EBM(evidence-based medicine)=根拠に基づいた医療」を、主治医と相談しながら選択し、標準治療が合っていないということがわかり次第、また別の手を打つといった方針を考えている。

2013年3月8日金曜日

愚痴とかなんとか1:どうでもいいこと

淡々としたまとめではなくて、いわゆる愚痴的などうでもいいことを。

ちょっとだけ書いてみたけど「なんで私が?」「どうして私が?」というのは、どうしても避けられない気持ちで、どうしようもない。だから正直な話、毎日呪ってる(笑)。何を呪ってるのかと聞かれると、よくわからないので困っちゃうんですけど。

乳がんになった理由も探してみるわけなんですが、乳がんにならなくても、リスクファクターとして上げられているもので、1つも引っかからない女性って、実はほとんどいないんじゃないかと思う。もちろん、1つもひっかからないのに、乳がんになった人っていうのは、もっと辛いんだろうけど。私にとって一番大きいリスクファクターは、妊娠出産をしていないことなんだろうと思うけど、私とまったく同じリスクファクターに当てはまっていても、乳がんにならない人もいるのも事実で、結局、リスクファクターが決定的な要因になっているとは言いがたいんじゃないだろうかと思っている。だから「なんで私が?」「どうして私が?」と思うのは間違ってないと思うんですよ。ほらね、どうでもいい話でしょう?

私が乳がんになって、今後辛く思うのだろう、現在でも辛いなぁと思うのは……

・ホルモン治療を受けることになるので、この先出産はほぼ無理

これは告知を受けた際に、すでに言われていたことなのですが、特に書いていませんでしたね。手術後、再発しなければ最低5年はホルモン治療を受けることになるので、その間閉経状態になるため妊娠はできません。また、その間に妊娠したとしても(たぶんしないと思うんだが……)、健康な子供は生まれてこない可能性が高いのです。

だから、今、妊婦さんや、お子さんを連れている方を見ると、なんとも言えない気持ちになる。今まで妊娠/出産を望んだことがほとんどなかった(相手がいないというのが一番大きかった)けど、今更ながら、無理だということになったら、逆にすごく残念な気分になっています。かなりリミット年齢にいたからというのもあるんだろうけど、今後は妊娠が無理と知ったとき、がんの告知もあったのですが、妊娠ができないという話の方が実はショックでした。なので、妊婦さんやお子さん連れの方を見ると、今は自然と涙がでてきます。そのうち慣れるとは思ってるけど。

何十万円とか払えば、卵子を凍結保存できるみたいだけど、この年になってしまうと卵子自体も年をとってるだろうと思ってるので、今更しません。結局その卵子を使っても、妊娠できる確率は2〜3%ぐらいだと何かで見かけたので。まあ、私の小葉癌になる確率の方が高いくらいですかね。あはは。

・「再発」の恐怖を感じながら生きなくてはならない
まずは、今書いている「標準治療」を受けないとならないわけだが、どんな初期でもがんの根治はかなり難しい。私の場合は、手術が終わらないと、どういう結果が出るかがわからないものの、この先常に「再発」の恐怖とともに生きなければならない。ステージごとの生存率が出ているけど、どんなにそのステージの生存率が高くても、生存率が100%でない限りは、患者にとっては0%か100%しかないと思う。特に、私は、今回の小葉癌になることで、自分が5%の域に入ったということから、小さな数値にも普通に入ることがあるんだなぁということを知ったような気がする。だからこそ、恐怖をより感じるようになった。

このあたりでしょうか。たぶん、今後どんどん増えそうだけど。

あとは、月並みですが、人間には寿命があるということを改めて感じている。がんの場合は、進行することである程度余命がわかるので、それって実は幸せなのかもしれない。がんで突然死は基本的にないから、ある程度の期間でやりたいことをやってから、死ねるのはいい。自分で余命は決められないけど、がんの場合、比較的ゆっくりと死へ向かっていくことから、slow deathと呼ばれる理由もわかるかも。
「今から、なに言ってるの!」と思われるかもしれないけど、今、自分の死を確実に意識できたというのは、よかったと思っている。「私としては」という前置きがつくけど。

2013年3月6日水曜日

「標準治療」とは1:TNM分類

乳がんだけでなく、がんの治療の基本には「標準治療」が使われる。標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者に行われることが推奨される治療の総称だ。

よく、「最先端の治療」などがメディアで紹介されることがあるが、最先端だから最も優れているというわけではない。最先端の治療は、開発中の試験的な治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明されれば、「標準治療」として組み込まれることになるが、それまでは標準治療とはみなされない。

もちろん、標準治療以外の方法を選ぶこともできるが、強い理由がない限りは、基本的に標準治療を選ぶことになるだろう。乳がんの場合の標準治療は、病期(ステージ)にもよるが大抵は次の3つがセットになる。

・外科的手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
(上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の出現や、がんの種類によって変わる)


これらの治療に入る前に、まずは病期(ステージ)を確定しなければ、治療は進められない。すでにいくつか病期(ステージ)に関する内容をエントリー内で書いてきたが、改めてその内容を記してみたい。

・TNM分類

乳がんの「進行度」の指標、つまりその人の乳がんがまだ早い状態なのか、もう手後れに近い状態なのかをいくつかの段階に分けて示す指標が「病期(ステージ)」だ。手術前の臨床診断結果で病期(ステージ)を推定しておき、手術後の病理診断結果を持って確定することが多い。そして、病期(ステージ)を示す際に1番よく使われる分類が「TNM分類」である。

Tとは乳がんの腫瘤(Tumor)のことで、Nはリンパ節(Node)の転移のこと、Mは遠隔部(肺、骨など)の転移(Metastasis)のこと。そしてこのT、N、Mの組み合わせにより、病気の進行度を表す。

・TはT0~T4までの5段階
・NはN0~N3までの5段階
・MはM0とM1の2段階

前回のエントリーで「T1N0M0=ステージ1」だとか「T3N2M0=ステージ3」だとかとちょっと書いたんだけど、次の表を見てもらえば、病期(ステージ)が同じでも、TNMの組み合わせは異なることがあるというのが、わかってもらえると思う。乳がんでは、このTNMを使って病期(ステージ)を表すことがほとんどだ。ちなみに、手術後の病理診断結果によって確定したTNM分類は、Tの前に小文字のp(pathologic=病理学的)を入れて、pT1N0M0などと表記することもあるらしい(NCCN=全米がん情報ネットワークのガイドラインより)。



実際のところ、ほんの1ヶ月前までは、まさか自分ががんになるなんて、思ったことはなかった。そのうちあるかも、というのはあったけど、現実味を帯びた考えではなかった。そもそも、女性の20~16人に1人の割合で乳がんは発症するといわれているので、生涯乳がんにならない女性の方が多いのだから。
なのに、「なぜ私が?」というのは、私もそうだし、恐らく乳がんになった誰もが思っていることだろう。
知人などに、乳がんの話をすると、「初期なら乳房を手術しなくても大丈夫なんでしょ?」といわれることがある。私も実際、そんな感じだった。腹腔鏡みたいな手術とかもできるんじゃないの?とか、薬である程度治ったりするんじゃないのかって。それは、まったく違っていた。徹底的に違っていたのだ。
次回からは数回に分けて、標準治療のそれぞれについて、今回説明した病期(ステージ)と乳がんの種類、がん細胞の増殖などに関連する因子などとともに、紐解いていく。