2013年3月12日火曜日

「標準治療」とは2:外科手術と病期(ステージ)

前回はがんに対する「標準治療」とはなにか、という話をした。
繰り返しになるが、乳がんでは、次の3つがセットになることが多い。

・外科手術
・放射線治療
・ホルモン療法、化学療法、分子標的療法
��上記の3つは全身療法であり、これらの内容はがん細胞増殖に関係する因子の出現や、がんの種類によって変わる)


これらの治療は、病期の確定後に進められることになり、その病期(ステージ)を確定するために、TNM分類が使われるという話をした。何度か同じことを書いているが、がんというのは、細胞の異変によって引き起こされる病気なので、いわゆる臨床診断(診察や画像による診断)だけでなく、病理診断(組織による診断)の2つの診断が合致することで、確定診断となる。病期(ステージ)の決定も例にもれず、ガンの確定診断が出たあとであっても、臨床診断だけで病期(ステージ)を確定することが難しい。

特に私の小葉癌の場合、これも何度も書いているが、術前に行われる一連の検査にて、がんの広がりが大半を占める乳菅癌よりも確定しにくいというのもあり、臨床診断によって、現在医師がカルテに記入した病期(ステージ)は、単に推定しているものと言ってもよいのだろう。とは言え、医師としても適当に治療を進めるわけではなく(当たり前ですが)、基本的に現状わかっていることをベースに治療を進めていくことになる。

・外科手術が適用になるのは
手術というと、その術式について話されることが多いが、まずは、乳がんの場合に外科的手術が適用になる病期(ステージ)があるということを知っておきたい。乳がんにおける外科手術は、乳房やリンパ節など、局所に現在見えているがんを取り除けるという判断ができるのであれば、手術が適用になることが多い。

ただし、遠隔転移がある場合は、すでに全身にがんが広がっているということになるので、手術の適用にはならない。また、遠隔転移がなくても、鎖骨の上下や胸の内側のリンパ節にがんが転移している場合も、ほぼ全身に転移が始まっているとなるため、手術の前に全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的療法)を行い、その結果改善が見られた場合のみ、手術もしくは放射線治療などが行われることになる。

前回のTNM分類によれば、手術が適用となるのは、病期(ステージ)0~3Aまでだ。以前上げたTNM分類の表は、病期(ステージ)3が3Aと3Bしかなく古いものだが、現在は3Aに加え、3Bと3Cに分けられ3つになった。こちらの表にある3Bのうち、T4+N0、N1、N2+M0が病期(ステージ)3Bになり、それ以外が病期(ステージ)3Cとなる。

・外科的手術の術式
現在、乳がんで行われる外科手術は以下の2つから選択されることが多い。

乳房温存術
がんを含めて乳房を部分的に切除し、乳房を残す方法。円状に切除する場合と扇状に切除する方法がある。現在は、乳がん手術の約半数で乳房温存手術が行われるようになった。

ただし、この乳房温存術を取るには、腫瘍の大きさ(通常は3cm以下)や、患者の乳房の大きさに対する腫瘍がどれぐらいの範囲を占めるのかが加味されて適用されることが多い。現状では適用にならなくても患者が希望する場合は、術前に全身療法(ホルモン療法、化学療法、分子標的療法)を行い、腫瘍が確実に小さくなった場合に適用するというケースもある。

なお、乳房温存術の先進国(欧米)では、温存乳房内での再発が増えたとの報告もあり、以下で解説する乳房切除術が段々また増えているそうだ。この術式の普及が10年遅れたと言われる日本では、今後どうなるのか注目されている。

また、無理な乳房温存術は、結果として崩れた乳房になり、患者のQOL(quality of life)が著しく低下するといった報告もされており、外科医にも審美的な観点から削除範囲を決められる手腕が必要になる。

乳房切除術
がんを含めて乳房全体を切除する方法。通常、胸筋(胸の筋肉)を残す手術が行われるが、がんが胸筋に入っている場合は胸筋も一緒に切除する。最近は全摘というと、この乳房切除術を指すことが多い。

乳房切除術では、すべての乳腺組織と脂肪組織、乳頭を切除して、残った皮膚を繋ぎ合わせる。つまり、術後は平たい胸になる。しかし、形成外科医により、失った乳房を作り直す「再建」を選ぶことができる。再建方法には、一期再建(乳がんの手術とともに再建を行う)、二期再建(乳がんの手術後に、改めて再建を行う)があり、術式にはおなかの組織や背中の組織といった自家組織を使う場合とシリコンなどの人工組織を使う方法の2種類がある。

なお、これまでシリコンなどの人工組織には、健保が適応にならなかったのだが、これが4月~5月ぐらいから適用されるとのこと(ちょっとどうなるかよくわからないので、次回主治医に聞く予定)。


リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検

センチネル(sentinel:英語で「見張り」という意味)リンパ節とはわきの下のリンパ節のうち、最初にがん細胞がたどりつくリンパ節で、乳がんでは、あきらかにリンパ節への転移がない場合でも、手術前もしくは手術中にセンチネルリンパ節を切除して、がん細胞の有無を調べる検査(センチネルリンパ節生検)を行うことが多い。

その理由は、センチネルリンパ節にがん細胞がなければ、その先のリンパ節にも転移はないと判断でき、わきの下のリンパ節はそのまま残すことができるからだ。センチネルリンパ節にがん細胞が発見された場合は、リンパ節をすべて取る(これを「リンパ節郭清」と呼ぶ)方法を選ぶことになることが多い。

センチネルリンパ節生検を行うことで不要なリンパ節郭清を回避でき、リンパ節郭清を行った場合にその30%に起こるとされている浮腫や運動障害などから逃れることができるとされている。ただし、問題はそのセンチネルリンパ節を同定(確定)できるのが95%ほど。さらに同定できた場合でも生検によって陰性(転移なし)とされた症例のうち、数%は偽陰性であり、術後の病理的組織診断によって転移がわかるケースもある。

このセンチネルリンパ節生検は、2010年より健保適応となったため、一般的な乳がんの手術で適用されることが増えている。

次回は、放射線治療とホルモン療法、化学療法、分子標的療法について、また紐解いていきたい。乳がんの場合は、術後の全身療法に選択肢があり、適切な選択肢を選ぶことで、生存率の改善が望める。自分のがん細胞の増殖などに関連する因子により、治療方法をオーダーメイドできるのだ。しかし、複数の治療方法があるからこそ、患者は自分の状態を見極めたうえで治療方針を決定し、治療方法を選んでいく必要があることも事実である。

ちょっと話がずれるが、私の母は私の乳房がなくなる(というか手術する)ことに対してひどく動揺しているようで、知人などから仕入れた情報をたまに知らせてくれる。「○○さんの奥さん、乳がんだったらしいんだけど、手術せずに抗がん剤やったら、がんがなくなったんだって!手術もしてないみたいよ!」
母にとって、これは娘に対する朗報だと知らせてくれたんだと思うけど、もし、その奥さんが標準治療を選択して、現在に至っているのであれば、恐らく、転移があって手術が適用にならず、抗がん剤を行ってみたところその効果があって、がん自体が見えなくなったということだと思う。残念ながらがんそのものは、抗がん剤で治ることは非常に少なく、現在なくなったとしても、そのうち再発してもおかしくないし、再発しないかもしれないし、といったところだろう。母はこの治療方法を娘にも適用したいと思ったのだろうが、私が同じ治療方法になる場合は、手術ができないほど広がっているからっていう可能性の方が大きいんだよということを説明せずにはいられなかった。
以前、自分のこれまでのがんに対する知識に関して「徹底的に違っていた」というのはこのことだ。もしかしたら、薬だけで治るのかも、手術しなくてもいいのかも、というのは、標準治療を選ぶのなら、早期であれば手術なしでは治療とはならないため、通常は存在しない選択肢になる。もちろん、標準治療を選ばないという選択肢もあり、それを実践している方も多くいるのだが、私には、選ばない理由が今のところ見つけられないというのが本心だ。まずは、「EBM(evidence-based medicine)=根拠に基づいた医療」を、主治医と相談しながら選択し、標準治療が合っていないということがわかり次第、また別の手を打つといった方針を考えている。

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